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制御性T細胞(Treg)とは?ノーベル賞・坂口博士の功績から紐解く、進化する免疫療法と医療の展望
2025年ノーベル生理学・医学賞受賞:坂口志文博士と制御性T細胞
坂口志文博士が、「末梢免疫寛容に関する発見」により、メアリー ・E・ブランコウ、フレッド・ラムズデルとともに2025年ノーベル生理学・医学賞を獲得した。
日本人としては、2018年の本庶佑博士以来である。
現在世界中から最も注目されている免疫学のトピックであり、この件に触れない訳にはいかない。
坂口博士は、制御性T細胞(Treg)という「免疫のブレーキ役」を発見し、医療の常識を覆した人物である。
Tregとは、免疫システムにおいて過剰な攻撃を抑える「憲兵(ブレーキ役)」である。
アクセル役には、キラーT細胞などがあり、免疫システムはこのバランスで成り立っている。
逆風を乗り越えた信念:タブー視された「抑制」の研究と歴史的発見
そう聞くと、座りのいい話に思えるが、坂口博士の研究は最初から順風満帆ではなかったようである。
1970年代、定説になりつつあった免疫を抑える細胞(サプレッサーT細胞)の存在が否定され、ブームは一気に崩壊し、「サプレッサー(抑制)」という言葉を使うこと自体がタブー(禁句)となった。1980年代、そんな逆風の中、若手研究者だった坂口博士は「抑制する細胞」の存在を信じ、研究・発表を続けていた。
その信念が、1995年のCD25という分子、2003年のFoxp3という遺伝子の発見へと繋がる。
このFoxp3遺伝子の働きかけによりT細胞がTregへと変化する。
遺伝子レベルでの裏付けが取れたことで、Tregの概念は不動の地位を確立していくこととなる。
がん治療における革命的な戦略と未来への展望
現在、この概念はがん治療の分野で大きく期待されている。
がん細胞は、そもそもTregを自分の周りに集めて免疫の攻撃を免れている。
つまり、がん治療では、このTregを排除して、攻撃部隊(キラーT細胞)を突入させなければならない。
現在、このTregのバリアを打ち破るために、
- Tregを除去する。
- Tregを無効化する。
- Tregを攻撃型に変質させる、という様々な治療アプローチが研究開発されている。
すでに臨床試験段階に入っている抗がん剤も存在している。
もちろん、副作用との戦いはあるが、この新しいがん治療戦略は、坂口博士の発見がなければ生まれてこないものであった。
がんの種類に関係なく、全てのがんが投薬で完治する時代が来るかもしれない。
著名な画家パブロ・ピカソが「Everything you can imagine is real.」と言ったように、私も昔のドラマ「スタートレック」のような時代がそんなに遠くない未来だと信じている。
古林圭一

